2023年06月06日

[追想3]1996年のリーフレットから

会社設立前の1996年10月に、独立の挨拶とプレゼン資料を兼ねて「KINKI TYPEFACE LIBRARY」を作成しました。

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このとき「今田欣一デザイン室」という屋号を使いはじめ、このまま「有限会社今田欣一デザイン室」として登記しました。また、書体名で「欣喜」を使ったことから、のちにブランド名として「欣喜堂」という名称を使うようになりました。
「KINKI TYPEFACE LIBRARY」には次の9書体について、種田山頭火の「この道しかない春の雪ふる」という俳句を組んで(ただ並べているだけですが)掲載しています。
[ベーシック・タイプ]欣喜明朝/欣喜ゴシック/欣喜ラウンド
[カリグラフィ・タイプ]欣喜楷書/欣喜隷書/欣喜行書
[ディスプレイ・タイプ]欣喜江戸文字/欣喜図案文字/欣喜現代文字


当時は[ディスプレイ・タイプ]の要望が強く、採用されたのは「欣喜図案文字」、のちの「イマリス」だけです。「イマリス」は株式会社ニィスと契約して制作しましたが、現在は販売されていないようです。
「欣喜江戸文字」も不採用でしたが、のちに『タイプフェイスデザイン漫遊』(2000年)という本のためにウエイトを変更した書体を試作しました。「鶴舞」という書体名で、フォントデータが残っていました。フォントデータが残っていたのは「鶴舞」だけです。
[ベーシック・タイプ]のうち、「欣喜明朝」と「欣喜ゴシック」はあるフォントメーカーで検討していただきましたが、結局不採用でした。やはりフォントメーカーでは、外部の者がこのような基本的な書体を担当するというのは無理だったようです。「欣喜明朝」は「ときわぎ白澤明朝」、「欣喜ゴシック」は「ときわぎ白澤呉竹」として継承していますが、今後、制作する予定はありません。「欣喜ラウンド」は和字書体「ロンド」として販売しています。

全く注目されなかったのが[カリグラフィ・タイプ]の「欣喜楷書」「欣喜隷書」「欣喜行書」です。私としては当時一番推していたので、自主制作でそれぞれ漢字1,000余制作し、無料頒布していた時期がありました。これが現在の「いぬまる吉備楷書」「さるまる吉備隷書」「きじまる吉備行書」になっています(販売していません)。

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posted by 今田欣一 at 08:27| [事始]活字書体打ち明け話3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月08日

[余聞3]2002年の制作資料ファイルから

2002年に和字書体の制作を担当した「花胡蝶」「花蓮華」「花牡丹」(当初はRA宋朝体、RA楷書体、RA隷書体と呼んでいた)の制作過程の出力物などをまとめたファイルが残されていました。当時はFAXでやり取りをしていたのですね。
宋朝体「花胡蝶」および楷書体「花蓮華」、隷書体「花牡丹」は、リョービ「伝統書体シリーズ」としてリリースされました。ファミリーも含むと全部で7書体です。それらの制作過程がわかる資料として貴重だと思います。

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RA宋朝体L、M、B
全数印字テスト(16Q、24Q)
文章組テスト(16Q、20Q) ※『銀河鉄道の夜』より
全文字全組み合わせテスト(17Q)
修整用チェックシート

RA楷書体L、M、B
全数印字テスト(16Q、24Q)
文章組テスト(16Q、20Q) ※『銀河鉄道の夜』より
全文字全組み合わせテスト(17Q)
修整用チェックシート

RA隷書体D
全数印字テスト(16Q、24Q)
文章組テスト(16Q、20Q) ※『銀河鉄道の夜』より
全文字全組み合わせテスト(17Q)
修整用チェックシート

※RA宋朝体Lbのbは修整回数を表す。b=2回目、c=3回目、d=4回目、……。


私の勝手な思いではありますが、かつてできなかった「紅蘭グランドファミリー」のリベンジを、この「伝統書体シリーズ」で果たせたと思っています。そして私の40代の代表作となったのです。
posted by 今田欣一 at 09:13| [事始]活字書体打ち明け話3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月23日

[余聞3]宋朝体は明朝体の祖先だから……(花胡蝶に寄せて)

「松本第一期 文字塾展」が、2023年6月4日から10日まで松本市のマツモトアートセンターで開催され、大盛況だったそうです。その展示作品を収録した冊子を送っていただきました。
注目したのは、第一期の塾生の中で、宋朝体と組み合わせるための和字書体に取り組んだ人が2名もいたことです。前例のひとつとして「花胡蝶」も当然、チェックされていたでしょう。そして終了後の懇親会でも、その話題があったようです。私としては「花胡蝶」がどのように語られ、評価されていたのでしょうか。

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明朝体も宋朝体も、もともと漢字のみで組まれていました。わが国では、明朝体は本文用として広く使われるようになったので、それに伴い、組み合わせる和字書体も発展していきました。現在では前例がたくさんあり、新しい書体にしても、それらを参考にして制作することができます。ところが宋朝体には前例があまりないのです。
木版印刷からの漢字書体の歴史を考えた時、宋代の刊本字様(宋朝体)が合理化されることにより、明代の刊本字様(明朝体)が生まれたことはすでに知られていることです。組み合わせる和字書体を考える時に、すでに明朝体と組み合わせる和字書体は完成されていることから、そこから歴史を遡ることで、宋朝体にふさわしい和字書体になるのではないかと考えたのです。
「花胡蝶」の和字書体を設計するにあたり、私が参考にしたのは、金属活字の「晃文堂明朝体五号」です。たまたまある雑誌に清刷りの複写物が掲載されていて、リョービ書体の源流ということもあり、これを参考にしようと思いました。漢字とは逆に、時代を巻き戻すように、具体的には、漢字の宋朝体の筆法・結法を和字書体に取り入れながらまとめていきました。
こうすることによって、あまり特徴はないかもしれませんが、宋朝体「花胡蝶」にしっかりと調和した和字書体が出来上がったのではないかと思っております。
posted by 今田欣一 at 14:36| [事始]活字書体打ち明け話3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月24日

[余聞3]書写の楷書体、彫刻の楷書体(花蓮華に寄せて)


ある人が言いました。
「タイプデザイナーは縁取りをしてから中を塗りこんでいる。こういうのは双鉤填墨と言って、書道ではやってはいけないこととされている」
書家の受け売りなのでしょうが、双鉤填墨法も書写の複製法として確立している方法だと思います。どうも書道が格上で、タイプデザインは格下という思い込みが強いようです。
そもそも印刷の文字は、木版印刷でも金属活字でも彫刻という工程があります。石碑も印判も彫刻されています。彫刻するとき、だいたいアウトラインを整えることによって、印刷される部分とそうでない部分を分けています。
現在のデジタルタイプにおいても、アウトラインを描くことでグリフを作っていきます。彫刻することによって、肉筆から放たれ、客観的に読むことができるようになると考えられます。

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日本では楷書体というと毛筆で書かれた肉筆を想像することが多いようですが、中国で作られた楷書体は筆書系ではなく、清代の木版印刷の字様を起源とする彫刻系だと思われます。私は筆書系の楷書体と区別するために、彫刻系の楷書体を「清朝体」と呼ぶようにしています。
「花蓮華」の漢字書体は、台湾で制作された彫刻系の楷書体です。それと組み合わせる和字書体は、やはり彫刻系がいいのではないかと考えました。
そこで以前、古書市で買っていた明治期の木版教科書『尋常小学修身教範巻四』(普及舎、1894年)の字様を参考にすることにしました。こうして制作したのが「花蓮華」の和字書体です。
posted by 今田欣一 at 08:21| [事始]活字書体打ち明け話3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月25日

[余聞3]ゴシック体を毛筆で書くと……(花牡丹に寄せて)

隷書体もまた漢字だけで、日本語の漢字かな交じり文を組むことのなかった書体です。楷書体はまだしも、隷書体の和字書体なんて前例が少ないのです。カタカナはともかく、そもそも隷書の筆法でひらがなを書くのは不自然だし、かといって楷書体の和字書体を転用するというのも無理があります。
色々考えた末に行き着いたのは既存書体のゴシック体でした。ゴシック体に組み合わせている和字書体は、すでに見慣れているので抵抗がありません。これを書写で再現すればいいのではないかと考えたのです。謄写版印刷の「孔版ゴシック体」、地図などで使う「等線体」も同じ方法ではないでしょうか。

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発注元であるリョービのゴシック体を参考にして、まずは毛筆で書いてみることから始めました。楷書体の和字書体では筆の穂先が外にあらわれる(露鋒)書き方ですが、ここでは、筆の穂先を見せずに丸め込む(蔵鋒)書き方にしました。こうすることにより、筆は右上りではなく水平に運びやすくなります。また、太さを均一に保つように、緩急をつけず最後まで力を抜かないように留意しました。
それをベースに、無理に漢字書体に合わせるのではなく、抑制のきいた筆法とオーソドックスな結法を追求しつつ、彫刻という工程、すなわちアウトラインを調整しながら制作したのが「花牡丹」の和字書体です。彫刻系の楷書体「花蓮華」の和字書体と対をなす隷書体「花牡丹」の和字書体として、長い文章でも使えるのではないかと思います。
posted by 今田欣一 at 06:45| [事始]活字書体打ち明け話3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする