活字書体設計で大きなプロジェクトを任されるような立場ではない。自分は自分らしく、これからも次世代に受け継ぐべき書体を、地道にじっくりと丁寧に制作していこうと思っている。
池袋コミュニティカレッジの私の講座は、受講者が定員にたりなくて開講できないことはあったが、なんとか2009年まで続けた。現在は「typeKIDS」という勉強会として継続しているが、新宿区の榎町地域センターでやるようになって、池袋は通過駅になった。
しかしながら東池袋KIDSはフィナーレではない。気持ちはインテルメッツォ(間奏曲)である。
当初の「欣喜楷書」、「欣喜行書」、「欣喜隷書」は、硬筆書体として試作したものであった。とりあえず漢字1006字だけの試用版を制作し、無料頒布しようという企画であった。漢字書体1006字のレベルで「欣喜楷書・試用版」、「欣喜隷書・試用版」、「欣喜行書・試用版」の3書体の試作品が完成したのは2001年のことである。
さらに『中国硬筆書法字典』(司惠国・王玉孝主編、世界図書出版公司、2003年)を参考にして全面的に見直し、これに伴って名称もそれぞれ「欣喜真」、「欣喜歩」、「欣喜平」に変更した。
●『体育館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社、2012年)
試用版の無料頒布期間が終了したのち、あらたに制作したのが「ストロベリー」「ブルーベリー」「ラズベリー」の硬筆書体三部作である。これらは「いぬまる吉備楷書W3」「さるまる吉備隷書W3」「きじまる吉備行書W3」として継続されている。
「いぬまる吉備楷書W3」
孔版のもうひとつの基本書体である楷書体にも取り組んだ。自分の筆跡を基にしてフェルトペンで書いたが、その制作にあたっては 『近代孔版技術講座基礎科第1部テキスト』(実務教育研究所孔版指導部編集、財団法人実務教育研究所、1971年)に掲載されていた楷書体を参考にした。漢字書体は『書道教範』(井上千圃書、1933年、文洋社)のペン字手本を参考にした。のちに、『中国硬筆書法字典』(司恵国・王玉孝主編、2003年、世界図書出版公司北京公司)も参考にしている。
「きじまる吉備行書W3」
『近代孔版技術講座基礎科第1部テキスト』(実務教育研究所孔版指導部編集、財団法人実務教育研究所、1971年)には行書体は存在しなかった。謄写版ではヤスリの溝によって運筆に抑揚がつけられないので、行書体を書くことはむずかしいのかもしれない。そこで、漢字書体は『書道教範』(井上千圃書、1933年、文洋社)のペン字手本を参考にした。
「さるまる吉備隷書W3」
隷書体の硬筆書体はそれまで見たことがなかったので、自分の筆跡を基にしてフェルトペンで書いたが、その制作にあたっては、かつて謄写版印刷などで書かれていた手書きのゴシック体を参考にした。 『近代孔版技術講座基礎科第1部テキスト』(実務教育研究所孔版指導部編集、財団法人実務教育研究所、1971年)のゴシック体である。のちに、『中国硬筆書法字典』(司恵国・王玉孝主編、2003年、世界図書出版公司北京公司)も参考にした。
2014年7月24日改訂