2020年10月18日

「ぽっくる」

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「ぽっくる」は、リョービイマジクス株式会社と契約したうえで、1999年3月に制作を開始した(現在は株式会社モリサワに譲渡されている)。こういったカジュアルな見出し書体の制作は、フォントベンダーの要望に沿ったものだ。

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プレゼンした書体の多くは本文用書体だったが、フォントベンダーからは「見出し用の独創的な書体」でしか採用できないということであった。本文用の書体は「すでに販売されているものと競合する」、「このような書体は社内で制作する」とのことだった。
posted by 今田欣一 at 07:28| 活字書体の履歴書・第3章(1994–2003) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月20日

「はつひやまと」「わかばやまと」「みのりやまと」

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はつひやまとM

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わかばやまとM

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みのりやまとM

フォントワークス・インターナショナルのコンサルタントの方が、東池袋の事務所に訪れてくれたのは1997年だったと思う。当時はフォントワークス・インターナショナルで企画・制作し、フォントワークスジャパン(現在のフォントワークス株式会社)で販売するということだった。
完成している書体があれば、「フォントワークス」からリリースしないかということだった。その頃、「FONTWORKS CLASSIC」というカテゴリーの「マティス」や「ロダン」といった書体と組み合わせて使用する「FONTWORKS KANA」というカテゴリーが設定されており、佐藤豊氏が「えれがんと」「ハッピー」「墨東」などの書体をリリースされていた。和字書体なら提供することは可能ではないかと思った。
思いついたのが、1991年に『いろいろいろは』という冊子のために試作していた和字書体である。ひらがな48字を重複することなく全部つかいながら全文がひとつの文脈になっている「いろは歌」だが、近藤春男さんは、その別バージョンを数多く作られている。これを私は「いろいろいろは」と呼んで、それを新しい和字書体を作って冊子にまとめたのだった。
その書体は、『人と筆跡−明治・大正・昭和−』(サントリー美術館、1987年)の図版などを参考にして制作したもので、このオリジナル・バージョンは、のちに「ほしくずやコレクション」で「たうち」、「さなえ」、「いなほ」として販売している。
これをベースにして、「マティス」に合わせてリデザインしたのが「はつひやまと」「わかばやまと」「みのりやまと」である。そのために字面を大きくし、ファミリー(M、DB、B、EB)を制作した。とくに「「マティスEB」ともなると極太になるので、書写を生かしたオリジナル・バージョンとは全く異なるイメージの書体になった。3書体ともにEBのほうが広く使用されているようである。
制作が終わり、1999年8月にフォントワークス・インターナショナルとライセンス契約を取り交わした。2001年2月にフォントワークスジャパンに引き継がれたのち、2003年10月にライセンス契約を合意解除し、フォントワークスジャパンに著作財産権を譲渡した。
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2020年10月21日

「花蓮華」「花胡蝶」「花牡丹」

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「花蓮華M」

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「花胡蝶M」

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「花牡丹DB」

「花蓮華」「花胡蝶」「花牡丹」は、リョービタイプコレクション「伝統書体シリーズ」としてリョービイマジクス株式会社から2003年に発売された。そのパッケージには、リョービ株式会社・リョービイマジクス株式会社・文鼎科技開発股份有限公司の共同開発と記載されている。実際には、漢字、欧字は台湾の文鼎科技開発股份有限公司(英文表記:ARPHIC)がデザインし、和字書体を私が制作したものである。
「花蓮華」は、明治期の木版の教科書『尋常小学修身教範巻四』(普及舎、1894年)に登場した和字の流麗な字様を参考とした。「花胡蝶」は、リョービ書体の原型をなす「晃文堂明朝体五号」の金属活字の清刷りをベースに設計した。「花牡丹」もリョービ・ゴシックシリーズを援用して、波磔を強調しない抑制をきかせたデザインとした。
2011年11月にリョービイマジクス株式会社から株式会社モリサワに事業譲渡され、「花蓮華」「花胡蝶」「花牡丹」は、現在では株式会社モリサワで販売されている。なおリョービイマジクス株式会社は2012年にリョービ株式会社に吸収合併されている。


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2020年10月22日

「菜の花」

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「菜の花」という書体は、株式会社朗文堂で出版が企画されていた『ヘルマン・ツァップ−−活字と夢と』(未発売)の編集の一環として制作された。一冊の書物のための本文用書体である。その和字書体の設計を私が担当した。
『新デザインガイド 文字大全 雑誌・書籍・広告・パッケージ』(『デザインの現場』編集部、美術出版社、2002年)に、「菜の花 あたらしい日本語組版のための活字書体開発」という4ページの記事と組み見本が掲載された。
そして、この「菜の花」の和字書体が、その後のカスタムメイドの受託制作へとつながっていったのである。
posted by 今田欣一 at 08:34| 活字書体の履歴書・第3章(1994–2003) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月23日

手探りのなかのデバイス・タイプ

デジタル家電では情報表示が重要な機能となっていて、液晶ディスプレイを搭載することがあたりまえのようになっている。サイズが大きくなり解像度も高くなりつつなかで、そういった画面にふさわしい書体が望まれている。エンベッド・フォントと言うやつだ。
デジタル家電といっても、携帯電話などの通信機器からデジタルテレビ、住宅用ホームメディア・センター、ナビゲーション・システムまで大小さまざまである。画面サイズ、解像度のレベル、装置の特性などが違ってくるのだ。また、同一製品であっても、操作モードによっては表示文字の大きさが違う。
さらに世界多言語対応も条件のひとつになっている。その製品を、世界各国で販売するためには、多くの言語で文字を表示できる必要があるのだ。いわゆる多国語フォント化であり、各国語に合わせたデザインを求められる。
このような組み込みフォントの分野で、日本国内で大きなシェアを持っているA社からの発注で、同社の漢字書体に合わせた和字書体を制作した。新しいテクノロジーについては手探りの状態だったが、そんな環境のなか日本語で表示されるデジタル家電のために設計したのである。
posted by 今田欣一 at 08:22| 活字書体の履歴書・第3章(1994–2003) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする