ある人が言いました。
「タイプデザイナーは縁取りをしてから中を塗りこんでいる。こういうのは双鉤填墨と言って、書道ではやってはいけないこととされている」
書家の受け売りなのでしょうが、双鉤填墨法も書写の複製法として確立している方法だと思います。どうも書道が格上で、タイプデザインは格下という思い込みが強いようです。
そもそも印刷の文字は、木版印刷でも金属活字でも彫刻という工程があります。石碑も印判も彫刻されています。彫刻するとき、だいたいアウトラインを整えることによって、印刷される部分とそうでない部分を分けています。
現在のデジタルタイプにおいても、アウトラインを描くことでグリフを作っていきます。彫刻することによって、肉筆から放たれ、客観的に読むことができるようになると考えられます。
日本では楷書体というと毛筆で書かれた肉筆を想像することが多いようですが、中国で作られた楷書体は筆書系ではなく、清代の木版印刷の字様を起源とする彫刻系だと思われます。私は筆書系の楷書体と区別するために、彫刻系の楷書体を「清朝体」と呼ぶようにしています。
「花蓮華」の漢字書体は、台湾で制作された彫刻系の楷書体です。それと組み合わせる和字書体は、やはり彫刻系がいいのではないかと考えました。
そこで以前、古書市で買っていた明治期の木版教科書『尋常小学修身教範巻四』(普及舎、1894年)の字様を参考にすることにしました。こうして制作したのが「花蓮華」の和字書体です。