その研修で、最初に実習したのは石井細明朝体である。石井細明朝体の書体見本が配られた。この書体見本は仮想ボディ48mmサイズで、基準となる12文字が並べられている。部首、画数などの参考となる代表的な字種である。これを観察して、課題の字種を描いていくのである。
もうひとつ実習したのは石井太ゴシック体である。書体見本12字に合わせて、この8字を練習した。この8字はすでにあるのだが、もちろんそれを見ることはできない。同じ書体を、同じ書体見本に合わせて、新入社員3名が同じ文字を描く。最初は石井太ゴシック体とは違うものになってしまうが、いろいろ指導をうけていくうちに、石井太ゴシック体となっていくのである。
今このときに制作した原字(写真)をみると、まだまだだったと思うが、当時としては精一杯やった結果である。この新人研修のカリキュラムが、私にとっての書体制作の原点となっている。私だけではなく、写研の原字制作部門に配属されたすべての社員が経験しているので、同じような原字を保存しているはずである。そして、これらの原字からテスト文字盤を製作、テスト印字まで行われた(残念ながら、これらは持ち帰ることは認められなかった)。
その会社の書風に染まってしまうという人がいるが、そのようなことはない。書体見本のイメージでほかの文字を描くということであって、課題に石井細明朝体と石井太ゴシック体が与えられたということである。岩田明朝体やモトヤ明朝体であれば、その書体に合わせるということだ。
この新人研修のカリキュラムが、原字制作の初心者にとって、今でも有効な方法だと私は思っている。