鈴木勉さんが株式会社写研主催の第3回石井賞創作タイプフェイスコンテスト(1974年)で第1位を獲得した横組み専用書体は、1979年にスーシャLとして、そのファミリーであるスーシャBとともに写研から発売された。
私が入社したときには、スーシャLはほぼ完成しており、ひきつづきスーシャBが企画されていた時期であった。私もスーシャBの漢字書体の制作に、スタッフのひとりとして立ち上げの段階から参加した。
鈴木さんは、空間、錯視の見方に優れていた。文字の左右の縦画の角度を微妙に変えるなどの調整を施している。一字一字をよく見ると、極めて巧妙な視覚的な調整がなされていることがわかる。
制作方法に関して柔軟な考え方を持っていた。あらかじめ偏や旁などを、パーツとしてフィルムで作成しておき、それを組み合わせながら一文字を完成させるやり方だった。制作する順序も文字盤の配列のとおりではなく、制作しやすい順序ですすめられた。
それ以前から、作字合成する方法はあったが、新規制作で、ここまで徹底してやったのははじめてであった。今でこそ、デジタル・タイプではごく普通に行われているのだろうが、フィルムで、ハサミとセロテープを駆使して制作していたのだ。
鈴木さんも私も退社した後でスーシャHなどが開発された。これを見て鈴木さんは苦笑されていたという。
●ゴーシャ・ファミリーのつくりかた
ゴーシャは、横組専用書体として鈴木勉さんが開発したスーシャ・ファミリーに対応するサンセリフ系の書体である。1981年に、まずゴーシャEが写研から発売され、順次ファミリー化された。
鈴木さんがいくつかの案を作成し、そのなかからひとつの案が採用となった。私が鈴木さんのもとでゴーシャEに関わったのは、どのような方法で制作するかという仕様作成段階である。まずは原字のベースの準備。写真処理の特別の機械を使用し、暗室にこもっての作業を手伝ったのを覚えている。
制作には合理的な考え方を持っていた鈴木さんは、その版下に、アクセントをフィルムでシールのように、手作業で貼付けていくという方法を考えた。こうして、本制作に必要な基本の漢字と、その仕様書ができあがった。
本制作においては、スーシャBと同様に「作字合成法」が駆使された。この時期に作成されていた「作字合成法」のリストが、その後の書体制作に多いに役立ったことはいうまでもない。また、シールを貼付けるという方法も、他の書体で応用された。
ところで、鈴木さんはアクセントの付け方に悩んでいたところがあった。「点」の筆法のところに、ゴーシャでアクセントをつけるかどうかということである。私にも意見が求められ、スーシャに合わせてつけないほうがいいということで一致した。
その後ファミリー化されて、ゴーシャU、ゴーシャO、ゴーシャOSが開発されたが、同じデザインが踏襲されていた。ところが、鈴木さんも私も退社した後で開発されたゴーシャMでは、ここにもアクセントがつけられている。どうしてそのようになったのかは知る由もない。