2000年11月の橋本和夫氏『文字の巨人』インタビュー(字游工房ウェブサイト)で、つぎのようなことが述べられている。
太佐先生から僕は、文字の画線をフリーハンドで描くことを教わりました。習いはじめは烏口や溝尺などは使わせてもらえなかったですね。明朝の『永』をフリーハンドで書くことを指示されました。この意味は、画線の力を入れるところや抜くところなどの動きを体得するためです。彫刻の活字は、彫刻刀を自由に動かして文字を彫るのですから、いわゆる生きた線の文字が生まれたのでしょう。手書きの線は、画線の動きを意識するためか、不思議に自然な線質になるものでした。このようにして線質を見分ける能力が開発されました。(後略)
(前略)書道では、漢字・仮名の形のユニークさを生かして、大きく書いたり、長く書いたりして文字の流れを構成して、一幅の作品を完成させます。ところが活字では、どのように組み合わせても文字を生かせるために、四角の制約があり、その中に文字をデザインするには書道とは別の感覚が必要なわけですね。それらの技術を習得していたのは、元々活字を彫刻していた人のほうですから、取り組みが容易だったということでしょう。
彫刻の活字を実験してみた。
まず、木駒になるものを探した。最初はサクラ材で試したが、初心者には堅すぎて歯が立たなかった。そこで少し柔らかめの材料で、サイズは初号より少し小さいが15mm角のものを買い求めた。しかし柔らかすぎるとエッジがきれいにならない。やはりサクラ材のような堅いもので実験することにした。
彫刻刀は、とりあえずの実験用として、とりあえず木工用の1.5mmと3mmのものを用意した。DIY用の安価なものである。そのほかの道具は、篆刻用の印床、硯などを代用した。スタンドルーペはネイルアートなどのために売られていたものである。
●彫刻の活字の用具
@ 字入れ
木駒の小口に直接、面相筆で裏字に描いていく。まず朱墨でだいたいの当たりをつけ、墨で描いていく。墨と朱墨で修整を繰り返しながら仕上げる。朱墨ではなくホワイトのほうがよいかもしれない。
A 彫刻
彫刻には木活字のほかに種字彫刻がある。木活字は、近年では金属活字がなかったときに足し駒としても製作されてきたようだ。この実験では、木活字を製作することにする。ちなみに木駒の種字彫刻は、金属活字の母型をつくる前工程なので、条件が厳しくなるし、現在では再現する技術が一般的ではない。それに種字彫刻は後処理が比較的容易な鉛合金の種字彫刻になっていった。地金彫師といわれている人である。