応募したのは欧字を和字に近づけてデザインした作品です。私は欧字と和字とに造形的な共通性を見いだそうとしていました。和様の漢字があるのだから、和様の欧字(ローマ字)があってもいいのではないかと思っていたのです。佳作には入っているのですが納得のいくものではありませんでした。
やはり最初からカリグラフィーの基礎的な手法を学ぶ必要があるとずっと感じていましたがそのままになっていました。
●第9回(1986年)石井賞創作タイプフェイスコンテスト 欧文部門佳作
1990年夏、ぼくはイギリスのオックスフォードで開催されたType90というイベントに参加しました。そこでふたつのワークショップに参加してみました。
ひとつは、カリグラフィー(Calligraphy)〈1990年9月2日16:30-17:30〉でした。アメリカのジョージアンナ・グリーンウッド氏が講師です。教室には中央に大きなテーブルがあり、十人あまりの参加者が取り囲むようにすわっていました。講義はカリグラフィーにおける文字形象の特徴について、グリーンウッド氏による実演をまじえて説明されていました。
もうひとつのワークショプが、ストーン・カッティング(Stonecutting)〈1990年9月3日11:00-12:00〉でした。講師はアメリカのジョン・ベンソン氏でした。まず教室で下書きの実演がありました。下書きは薄紙に平筆で描くカリグラフィーでした。ステムやカーブの部分は自然なストロークで描かれますが、セリフの部分などはかなりの技術が必要とされるようです。
「カリグラフィー講座」を受講したのは、1991年頃だったと思います。当時は「日本カリグラフィー協会CLA」といっていたようですが、今は「日本カリグラフィースクール」(運営は株式会社カリグラフィー・ライフ・アソシエイション)になっているようです。
「カリグラフィー講座」の教科書は「イタリック体」、「ブラックレター・ゴシック体」、「カッパープレート体」の3冊とガイドブックがあり、いろいろなペン先と、ペン軸2種、インク4色がセットになっていました。現在は、内容は同じで「本格入門コース」という講座名になっているようです。
初級コースの講座の受講期間は6カ月でした。3書体それぞれに添削テストがあり、最後にまとめて認定テストを提出するシステムです。全部で10回の課題を提出することになっていました。
1 「イタリック体」
添削テスト1 大文字、小文字、数文字ずつを指定の用紙に書く
添削テスト2 指定の文章を指定の用紙に書く
認定テスト 「バースデー・カード」を、レイアウトして書く
2 「ブラックレター・ゴシック体」
添削テスト1 大文字、小文字、数文字ずつを指定の用紙に書く
添削テスト2 指定の文章を指定の用紙に書く
認定テスト 「クリスマス・カード」を、レイアウトして書く
3 「カッパープレート体」
添削テスト1 大文字、小文字、数文字ずつを指定の用紙に書く
添削テスト2 指定の文章を指定の用紙に書く
添削テスト3 指定の文章を指定の用紙に書く
認定テスト 「ウエディング・カード」を、レイアウトして書く
まずはカリグラフィーの基本ともいえるイタリック体からはじめます。十分に練習したのちに、添削テスト1、2を送付し、添削指導を受けます。ひきつづき、ブラックレター・ゴシック体の添削テスト1、2を提出します。カッパープレート体も同様に、添削テスト1、2、3を提出します。すべての添削テストが終了したら、3書体まとめて認定テストを提出します。これにより初級の修了証とともに認定証が発行されます。
初級コースが修了したならば中級コース、上級コースへと進むことになっていたようです。中級コースは、美しい作品づくりには欠かせないテクニックや技法をマスターすることになります。上級コースでは「アンシャル体とハーフアンシャル体」「フラクチュア体」「ローマンキャピタル体とスモールレター」を学習したようです。
ぼくはカラーインクやガッシュの特徴をいかして文字を書いたり、いろいろな彩色のテクニックを使ってカラフルで美しい作品を作ったりということには興味がありませんでした。なので、中級コースや上級コースには最初から進むつもりはありませんでした。……というのは「いいわけ」です。
第12回(1992年)と第13回(1994年)石井賞創作タイプフェイスコンテストは、ぱっとしませんでした。ぼくにとって第二次低迷期とも言えます。もたもたしているうちに、「カリグラフィー講座」の認定テストを提出できないままになってしまいました。
ローマ字は一日にして成らず……です。