
白井氏のレポートからは、河野三男氏と山本太郎氏の論争へと発展し、のちに『デザイン対話|再現か 表現か』(河野三男・山本太郎共著、朗文堂、2000年)としてまとめられている。
木村氏のレポートについては、翌年1月の「リョービ新春ショー」で開催されたミニ・セミナーで見ることができた。「トラヤヌス帝の碑文」の拓本は圧巻であった。のちに、『Vignette01 トラヤヌス帝の碑文がかたる』(木村雅彦著、朗文堂、2002年)としてまとめられ、その全貌をみることができるようになった。
その1年前のこと。1998年6月21日の消印があるDMが届いた。小林章氏からである。ニューヨークのInternational Typeface Corporation (ITC) 社の主催による第1回 U&lc Type Design Competition に応募した「Clifford(クリフォード)」という書体が本文書体部門で1席に選ばれ、応募全書体の中で最優秀賞を受賞したということであった。

●小林章氏からのDM
米国の企業のコンペで、欧字を母国語とする海外のデザイナーをさしおいての最高賞だ。これは快挙だと思った。しかも見出し用ではなく本文用である。本文用だと、組まれた時の読みやすさなどが要求されるので、なにより欧字に慣れ親しんでいないと難しいと思えるからだ。このような書体を最高賞に選んだ審査員もまた讚えられる。熟練された腕と、本物を追い続ける探求心が評価されるのは嬉しい。
それにしても『日経デザイン』1998年8月号のトピックス欄に掲載された記事はあまりにも小さかった。どのような書体かも、小さい図版では読み取れないほどであった。当時はそれほど注目されてはいなかったのだが、日本人がデザインした欧文書体を世界の人々が使う日が近づいてきたという実感があった。

●HONCOレアブックス『ローマ字印刷研究』
2000年2月のこと。HONCOレアブックス『ローマ字印刷研究』(井上嘉瑞・志茂太郎共著、大日本印刷株式会社ICC事業部、2000年)が発行された。もともとは『書窓62』(アオイ書房、1941年)および『書窓70』(アオイ書房、1941年)を原本として復刻したものである。
1999年のスライド映写会「夢街道 イタリアのタイポグラフィをめぐって」を中心に、1998年の小林章氏からのDM、2000年発行の『ローマ字印刷研究』からの刺激を受けて、私にとって、欧字書体への興味も深まってきた時期であった。
2014年7月24日改訂