
●当時の事務所の様子
ベランダからは、近くに雑司が谷霊園の緑、遠くには新宿の高層ビル群が臨めた。地下鉄有楽町線の「東池袋駅」と都電荒川線の「東池袋4丁目駅」から歩いて2、3分のところであった。

●ベランダから見た風景
それからの4年間、デジタル・タイプの原字制作を中心に、池袋コミュニティカレッジでの講座、オンデマンド出版など、東池袋を舞台に展開していった。個人的には、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)と日本タイポグラフィ協会(JTA)の会員にもなった(現在は退会している)。いろいろな人との出会いがあった。順調な滑り出しだった。
東池袋時代に制作した書体は「イマリス」と「ぽっくる」である。「イマリス」(imagineとAliceの合成か)は株式会社ニィス(エヌアイシィ株式会社に統合)の依頼により、「ぽっくる」(「ぽっちゃり」と「くるり」の合成か)は、リョービイマジクス株式会社(株式会社タイプバンクに委譲)の依頼により制作した。フォントワークス・インターナショナル(フォントワークス株式会社に委譲)では、最終的に総合書体の採用はなかった(和字書体として「はつひやまと」「わかばやまと」「みのりやまと」を制作)。

●「ぽっくる」の使用例
「こねこねこね」(早瀬亮著、二見書房、2013年)
書体制作以外にも、池袋コミュニティカレッジでの講座、オンデマンド出版という挑戦を試みたが、いずれもうまくいかなかった。力不足ということにつきる。
事務所を開設した直後に、西武百貨店の池袋コミュニティカレッジから「講座をやらないか」という話をいただき、1997年4月から書体制作の講座を開講した。その後、受講者が少なくて途切れたりしながらもほそぼそと継続した。結局、講座を継続できる人数に達しなくなったことから、2009年に講座を閉じた。
事務所設立と同時にウェブサイトを立ち上げた。そのとき書いていたエッセイを、株式会社ブッキングの協力でオンデマンド出版したのが『タイプフェイス・デザイン事始』(2000年6月1日発行)である。つづいてメールマガジン『週刊Rejoice!』でのエッセイをまとめた『タイプフェイス・デザイン漫遊』(2000年9月1日発行)、さらに株式会社コムクエストの依頼で執筆した『タイプフェイス・デザイン探訪』(2000年12月1日発行)も、それぞれオンデマンド出版した。残念ながらほとんど売れないまま現在では絶版状態である。

●池袋コミュニティカレッジでの発表展示会(2007年)
東池袋の事務所に4年間いた。ちょうど20世紀のおわりの4年間である。この4年間の直接的な成果は「イマリス」と「ぽっくる」の制作しかない。池袋コミュニティカレッジでの講座、オンデマンド出版は、結果的に失敗に終わっている。
しかしながら、この時期に受けた外部からの刺激によって、その後の書体制作の方向のきっかけとなった重要な4年間なのである。