2013年05月05日

[コンペは踊ろう]第2章 横組み、縦組み(1)

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●第10回石井賞創作タイプフェイス・コンテスト応募書体 1988年

 1982年ころから、私は欧字と和字とに造形的な共通性を見いだそうとしていた。第8回、第9回石井賞創作タイプフェイス・コンテストでは、欧字を和字に近づけてデザインした作品を欧文部門に応募し、それぞれ佳作に入っている。また、1986年に開催した「三人展」でも、英訳俳句を縦組みの連綿で和字のように表現した作品を出品した。

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●「三人展」銀座・ゑり円画廊にて 1986年

 今度はその逆をやればいいことに気が付いた。和字書体において、もっと欧字に近づけようと思ったのである。それは、欧字の「構造」と和字の「形象」を組み合わせることによって成り立つことなのである。
 和字にはひらがなとカタカナとがあるが、どちらも筆勢が縦の方向に走っている。われわれは画線を縦に走る流れとして受けとめて、文字をとおして内容の意味するところを吸収していく。
 縦組の場合は、一文字一文字が許容できる範囲内にあれば、その大きさが少しぐらい揃っていなくても、文字の重心が縦に通っていれば視線がまっすぐ縦に流れていくので、見た目にはそれほど気になるものではない。書写の場合には文字の大小に変化をつけるぐらいであるから、本来は不ぞろいなのである。文字の大小の不ぞろいが文字の機械的な単調さを救ってくれる効果があるのだろう。
 横組の場合は、文字個々の並び線に対して見かたがきびしくなる。最近は和文の横組が多くなったので慣れてきたかもしれないが、日本語の文章では横に向かう筆勢が少ないために視線の流れを円滑にすることが困難だということにかわりない。横組の並び線と、それにともなって必然的に生じてくる漢字対和字の大きさの問題を再検討する必要があった。
 縦に流れていく性質の和字を含んでいる日本語は、本来なら縦書きにされるべきものなのである。この基本的な考えを忘れてはならない。それをあえて横組みに挑戦しようというのである。(つづく)
posted by 今田欣一 at 19:41| 活字書体の履歴書・第2章(1984–1993) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする