
●オプチマ 写真植字機用文字盤
ヘルベチカのファミリーを制作し終えて、引き続きオプチマのファミリーを制作することになった。オプチマはステンペル社とのライセンス契約に基づくものである。
オプチマは、ステンペル社から原図を送ってもらっている。送られてきたのは、ヘルベチカとは異なり写植用のフィルム・シートだった。比較的大きなサイズだったと記憶している。少なくとも、ヘルベチカのような復刻というべき作業はなかったわけである。さしずめ移植である。
過去の優れた書体を次の世代へ繋ぐという仕事は、文化的にも意義深いことである。私がこのような先達の業績を実体験できたことは、まことに幸運だったと思われる。この時の経験が、今の私のベースにあるといっても過言ではないと思う。
欧字は、漢字よりさらに数値で管理されていた。まずライン、サイド・ベアリングなどの基準が設定されるが、とくにスペーシングの基本となるサイド・ベアリングは「データ・シート」を作成していた。ボディ・サイズは、80mmサイズで設計された。
本文用に使われる場合には10Qとか12Q、見出し用でも100Q以下だから、制作時の80mmサイズとは、見え方にかなりのギャップがある。そのギャップを埋めるために、廃棄された写真植字機から拾ってきた凹レンズで見ながら制作したものである。
日本の写真植字機の場合、日本語書体の印字に適するように設計されているので、ヨーロッパのメーカーとのライセンス契約によって発売する書体をそのまま使うことはできなかった。オプチマの原字が写植用ということであっても、16ユニット・システムに変換しなければならないということに変わりはない。オリジナルは18ユニット・システムで作られていたので、大きな変更はなかったものの、それでも組み見本などでのサイド・ベアリングの測定という作業は相変わらず残った。

●18ユニット・システムの説明図
『欧文組版入門』(ジェイムズ・クレイグ著、組版工学研究会監訳、朗文堂、1989年)より
デジタル・タイプのプロポーショナルの欧字書体では、これらの条件が解消され、ヨーロッパのメーカーによる欧字書体とほとんど変わりなく制作できるようになった。漢字・和字とマッチさえすれば、ヨーロッパのメーカーの欧字書体との組み合わせも容易になったということでもある。写研の欧字書体は、日本語書体がたとえオープンタイプになったとしても、しずかにその役割を終えるべきものであろう。