2023年06月04日

[余聞1]かな民友明朝/かな民友ゴシックの真実

ある著名なブック・デザイナーの方が次のようなツイートを投稿されていました。

HOI-1-2.jpg

わかりやすいように言葉を補ってみます。

写研のかな民友明朝/かな民友ゴシックは、小さくしても大丈夫なように調整されていたから大きく使うとやぼったかったんですよね。


「やぼったい」かどうかは感覚なので置いておいて、「小さくしても大丈夫なように調整されていた」というところに引っかかりました。
かな民友明朝/かな民友ゴシックの制作は、もともとの活字清刷りを拡大し、写真修整のスポッティングのような方法でピンホールを埋めるだけの作業でした。アウトラインはほとんど変えていません。それ以上の調整は一切していなかったと記憶しています。
「民友明朝体初号活字(かな)」と「民友ゴシック体初号活字(かな)」の写植文字盤化は、秀英明朝体初号活字の写植文字盤化と同じ時期に制作されました。
秀英明朝は、杉浦康平事務所からの要望で、大日本印刷との契約により制作したことは周知のことですが、かな民友明朝/かな民友ゴシックがどういう経緯だったのかについては全く分かりませんでした。
私は、秀英明朝と同じく杉浦康平事務所からの要望で大日本印刷を通じて活字の清刷りを入手した可能性もあるかなと思っていました。だが、この推察はハズレでした。
当時の関係者の方に直接お聞きしたところ、次のような返答がありました。一部を省略して引用します。

かな民友明朝/かな民友ゴシックは、築地にあった「民友社活版製造所」に行き、「明朝とゴシックのかな書体を写植にしたいんだが」と相談にいきました。先方では、こころよく了解していただき、ひらがな・カタカナの初号活字とその清刷りを提供してくれました。価格は、活字と清刷りの値段でした。どういういきさつで「民友社活版製造所」に行ったかは不明です。


つまり、要望があったのかどうかは不明ですが、活字の清刷りは「民友社活版製造所」から直接提供されたもので、それを元に写植文字盤化したということで間違いありません。
この書体の制作に私以外で関係した人はいません。43年前のことだろ、記憶なんてあやふやだから、元の清刷りと付き合わせてみないと確認することはできないと言われればそれまでなんですけど……。
posted by 今田欣一 at 07:12| 活字書体打ち明け話・1 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月03日

[余聞1]秀英明朝(SHM)和文デザイン仕様書

秀英明朝「和文デザイン仕様書」はA4サイズ、10ページで、[1]書体仕様と、[2]作業仕様とに分けられています。
[1]書体仕様
書体分類及び名称/書体概要/企画までの経緯/制作目的/使用目的/特徴/適正印字級数/制作字数/制作手順及び内容/字体/書体見本及び雛型字種/常用漢字対策/オリジナル原稿及び材質
[2]作業仕様
オリジナル原稿及び材質/原字デザインサイズ/原字デザイン内容(品質/ウエイト/エレメント/字形:字面・バランス・水平垂直・文字の大きさ・新規作成について)

さらに資料1〜資料8が付属されています。これらは「和文デザイン仕様書」作成までのレポートをまとめたものです。
資料1 (不明、コピーを紛失したものと思われる)
資料2 号数活字について
資料3 字面設定の経過
資料4 築地・秀英体にみられるその特徴
資料5 書体見本・書体雛形字種一覧
資料6 制作時間
資料7 作業工程図
資料8 秀英体制作作業開始に際して

当時はワープロもなかったので全部手書きです。今から振り返ると間違いも多く、また現在では否定されていることもあるのですが、その頃の書体制作の貴重な資料だと思います。

posted by 今田欣一 at 14:58| 活字書体打ち明け話・1 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする