2019年07月17日

[見聞録]第6回 本蘭アンチックのこと

株式会社写研大阪営業所の新しいビルディングが竣工したのは1992年10月のことであった。その際に社長の指示で、「定礎」の文字の原図のレタリングを、当時試作していた「本蘭アンチック(仮称)」で描いた。
「定礎」とは、礎を定めるという意味である。ビルやマンションの入口の周辺に御影石または金属製のプレートを使用し、「定礎」という文字と竣工日を入れるのが一般的になっている。
この「定礎」の文字が太い楷書で描かれているのはよく見かけるが、このような新しい書体で描くというのは珍しいことだと思う。
本蘭アンチックは、本蘭明朝ファミリーにつづく書体として、本蘭ゴシック・ファミリーとともに試作していた。本蘭ゴシック・ファミリーは2000年に発売されたが、本蘭アンチックが制作されることはなかった。
株式会社写研大阪営業所も今はなく、別の会社が入っているようだが、ビルディングの玄関脇にある「定礎」と「92年10月」の文字は、このビルが取り壊されない限り残される。本蘭アンチックの唯一の証である。


posted by 今田欣一 at 09:23| 活字書体の履歴書・第2章(1984–1993) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする