2013年09月10日

[筆のバラード]文字を刻む、心に刻む、時を刻む

 写本はそもそも書写されたものですから、個人個人の筆跡というものがあり、身体性がからんでいます。刊本では書写されたものを彫刻することで様式化されるので、身体性はある程度封じ込められることになります。それは活字書体として規格化されます。単純化、合理化と言い換えられるでしょう。
 活字書体というのは、書写からダイレクトに転換するということではなくて、いったんは彫刻の工程を経ています。活字書体にするには彫刻という工程を経なければなりません。書写から彫刻への転換によって様式化されます。さらに活字書体として合理化され、判別性や可読性がたかめられることになります。
 書写から彫刻への第一歩として、篆刻を習うというのも無駄ではないように感じました。
 よく「文字をつくる」という言い方をされますが、「文字をかく」と言ったほうがしっくりします。筆で「文字を書く」のに対し、印刀や彫刻刀で彫るときには「文字を画(か)く」のがぴったりです。そうすると活字書体設計でも「文字を画(か)く」ですね。いわゆるレタリングは「文字を描(か)く」というのでしょうか。
 「篆刻入門講座」は、文部科学省の認定を受けた日本唯一の篆刻通信教育講座です。基本的な受講期間は7ヶ月ですが、課題は12回提出することになっています。教科書と指導書によって、学法・章法・刀法の重要なポイントを基本から体験していくことになります。篆刻の用具も、初心者向けではありますが、長い間使うことを考えた一級品がセットになっていました。

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1期課題 朱文・白文の印稿、布字、印影の提出。
2期課題 二字印の印稿、印影の提出。
3期課題 漢印模刻の印稿、印影の提出。
4期課題 自己の雅印(朱文・白文)の印稿、印影の提出。
5期課題 自分で選んだ語句の印稿、印影の提出。
6期課題 5期課題の指導後の最終印影の提出。


 ぼくは自主的に受講期間を12ヶ月に延長しました。自宅では「第11回石井賞創作タイプフェイスコンテスト」への応募に向けての制作をしているころでした。

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舎短取長。短ヲ舎テ長ヲ取ル。短所や欠点を捨てて、美点や長所を選び伸ばすこと。
posted by 今田欣一 at 11:57| 筆のバラード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月07日

[筆のバラード]ごっつええ漢字の巻

 「書道専攻科講座」を受講していたころ、仕事では紅蘭細楷書と紅蘭細宋朝を担当したころにあたります。自宅では「第10回石井賞創作タイプフェイスコンテスト」への応募に向けての制作をしているころです。公私ともに、より深い毛筆書写の必要性を感じていたように思います。
 「書道専攻科講座」では、「楷書編」「行書編」「草書編」「かな編」に「篆隷編」が加わります。それぞれの教科書と学習指導書により、より深い学習を行うということでした。受講期間は24ヶ月です。課題の提出は、各編5回と総括課題の計6回+最終終了試験課題の合計31回。しかも、各回の課題はそれぞれ正・副2枚を提出しなければなりませんでした。
 なかなか「ごっつええ漢字」とはいきませんでしたが、とくに楷書、行書、隷書、の3書体は、活字書体の基本としても学習することは必須だということを再認識しました。
 その課題内容を簡単にまとめてみます。

一 楷書編

 「書道基礎科講座」では、欧陽詢の「九成宮醴泉銘」、褚遂良の「孟法師碑」、顔真卿の「麻姑仙壇記」などの臨書が中心でしたが、「書道専攻科講座」でも、北魏、初唐をはじめ、さらに多くの書風を理解し、臨書をすることから始まりました。

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1期課題 楷書の基本用筆を正しくして半紙に清書する
2期課題 臨書課題「高貞碑」を半紙に清書する
3期課題 臨書課題「雁塔聖教序」を半紙に清書する
4期課題 「論経書詩」を参考にして画仙紙半切二分の一の大きさに書く
5期課題 蘇東坡の詩を、楷書で画仙紙半切に書く
総括課題 1期課題をもう一度書く


二 行書編、草書編
 「書道基礎科講座」では、太宗皇帝の「晋祠銘」、趙子昂の「行書千字文」、王羲之の「蘭亭叙」から選んで臨書することなどでしたが、「書道専攻科講座」でも、筆が大きく旋回、躍動する「気脈」を会得することが説かれました。

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行書:
1期課題 行書の基本用筆を正しくして半紙に清書する
2期課題 臨書課題「集王聖教序」を半紙に清書する
3期課題 臨書課題「杜家立成雑書要略」を半紙に清書する
4期課題 「争坐位稿」を参考にして画仙紙半切二分の一の大きさに書く
5期課題 陸遊の詩を、行書で画仙紙半切に書く
総括課題 1期課題をもう一度書く
草書:
1期課題 草書の基本用筆を正しくして半紙に清書する
2期課題 臨書課題「十七帖」を半紙に清書する
3期課題 臨書課題「風信帖」を半紙に清書する
4期課題 「書譜」を参考にして画仙紙半切二分の一の大きさに書く
5期課題 杜荀鶴の詩を、草書で画仙紙半切に書く
総括課題 1期課題をもう一度書く


 草書も「書道基礎科講座」にありましたが、「書道専攻科講座」にもあります。字形に変化が多いし、類似の字形が多くあるので、文字を正しく学ばなければなりませんでした。


三 隷書編、篆書編

 隷書は、看板、石碑、表札などに使用されていますが、あまり一般的なものではありません。ですから「書道基礎科講座」にはなく、「書道専攻科講座」でやっと登場します。楷書と違った筆法は、活字書体のゴシック体に通じることがあると思い、ぜひ学習したいと思っていました。「書道専攻科講座」は隷書があったからこそ受講したようなものです。

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1期課題 隷書の基本用筆を正しくして半紙に書く
2期課題 臨書課題「西狭頌」を半紙に清書する
3期課題 「曹全碑」を参考にして画仙紙半切二分の一の大きさに書く
4期課題 篆書の基本用筆を正しくして半紙に書く
5期課題 課題の語句を、隷書(篆書)で画仙紙半切に書く
総括課題 1期課題をもう一度書く


 篆書は、4期課題の「篆書の基本用筆を正しくして半紙に書く」だけで、それほど深くは学びません。篆刻入門講座で、少し詳しく学習することになります。
posted by 今田欣一 at 16:03| 筆のバラード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月01日

[筆のバラード]ローマ字は一日にして成らずの巻

 第8回(1984年)と第9回(1986年)石井賞創作タイプフェイスコンテストは、ぼくにとって第一次低迷期とも言えます。あまりぱっとした書体を出品することができなかったのです。それでもこの2回のコンペでは、欧文部門で佳作に入選しています。
 応募したのは欧字を和字に近づけてデザインした作品です。私は欧字と和字とに造形的な共通性を見いだそうとしていました。和様の漢字があるのだから、和様の欧字(ローマ字)があってもいいのではないかと思っていたのです。佳作には入っているのですが納得のいくものではありませんでした。
 やはり最初からカリグラフィーの基礎的な手法を学ぶ必要があるとずっと感じていましたがそのままになっていました。

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●第9回(1986年)石井賞創作タイプフェイスコンテスト 欧文部門佳作

 1990年夏、ぼくはイギリスのオックスフォードで開催されたType90というイベントに参加しました。そこでふたつのワークショップに参加してみました。
 ひとつは、カリグラフィー(Calligraphy)〈1990年9月2日16:30-17:30〉でした。アメリカのジョージアンナ・グリーンウッド氏が講師です。教室には中央に大きなテーブルがあり、十人あまりの参加者が取り囲むようにすわっていました。講義はカリグラフィーにおける文字形象の特徴について、グリーンウッド氏による実演をまじえて説明されていました。
 もうひとつのワークショプが、ストーン・カッティング(Stonecutting)〈1990年9月3日11:00-12:00〉でした。講師はアメリカのジョン・ベンソン氏でした。まず教室で下書きの実演がありました。下書きは薄紙に平筆で描くカリグラフィーでした。ステムやカーブの部分は自然なストロークで描かれますが、セリフの部分などはかなりの技術が必要とされるようです。

 「カリグラフィー講座」を受講したのは、1991年頃だったと思います。当時は「日本カリグラフィー協会CLA」といっていたようですが、今は「日本カリグラフィースクール」(運営は株式会社カリグラフィー・ライフ・アソシエイション)になっているようです。

 「カリグラフィー講座」の教科書は「イタリック体」、「ブラックレター・ゴシック体」、「カッパープレート体」の3冊とガイドブックがあり、いろいろなペン先と、ペン軸2種、インク4色がセットになっていました。現在は、内容は同じで「本格入門コース」という講座名になっているようです。
 初級コースの講座の受講期間は6カ月でした。3書体それぞれに添削テストがあり、最後にまとめて認定テストを提出するシステムです。全部で10回の課題を提出することになっていました。

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1 「イタリック体」
添削テスト1 大文字、小文字、数文字ずつを指定の用紙に書く
添削テスト2 指定の文章を指定の用紙に書く
認定テスト 「バースデー・カード」を、レイアウトして書く


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2 「ブラックレター・ゴシック体」
添削テスト1 大文字、小文字、数文字ずつを指定の用紙に書く
添削テスト2 指定の文章を指定の用紙に書く
認定テスト 「クリスマス・カード」を、レイアウトして書く


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3 「カッパープレート体」
添削テスト1 大文字、小文字、数文字ずつを指定の用紙に書く
添削テスト2 指定の文章を指定の用紙に書く
添削テスト3 指定の文章を指定の用紙に書く
認定テスト 「ウエディング・カード」を、レイアウトして書く


 まずはカリグラフィーの基本ともいえるイタリック体からはじめます。十分に練習したのちに、添削テスト1、2を送付し、添削指導を受けます。ひきつづき、ブラックレター・ゴシック体の添削テスト1、2を提出します。カッパープレート体も同様に、添削テスト1、2、3を提出します。すべての添削テストが終了したら、3書体まとめて認定テストを提出します。これにより初級の修了証とともに認定証が発行されます。
 初級コースが修了したならば中級コース、上級コースへと進むことになっていたようです。中級コースは、美しい作品づくりには欠かせないテクニックや技法をマスターすることになります。上級コースでは「アンシャル体とハーフアンシャル体」「フラクチュア体」「ローマンキャピタル体とスモールレター」を学習したようです。

 ぼくはカラーインクやガッシュの特徴をいかして文字を書いたり、いろいろな彩色のテクニックを使ってカラフルで美しい作品を作ったりということには興味がありませんでした。なので、中級コースや上級コースには最初から進むつもりはありませんでした。……というのは「いいわけ」です。
 第12回(1992年)と第13回(1994年)石井賞創作タイプフェイスコンテストは、ぱっとしませんでした。ぼくにとって第二次低迷期とも言えます。もたもたしているうちに、「カリグラフィー講座」の認定テストを提出できないままになってしまいました。
 ローマ字は一日にして成らず……です。
posted by 今田欣一 at 07:30| 筆のバラード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする