2013年05月08日

[コンペは踊ろう] 第2章 横組み、縦組み(3)

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●第11回石井賞創作タイプフェイス・コンテスト応募書体 1990年

 日本語の表記上の特色は縦組みでも横組でもできるということである。汎用性からみれば縦横兼用が望ましいのだが、縦組み、横組みそれぞれのよさを追及していくと、縦組み専用、横組み専用という書体があっていいと思っていた。
 第10回石井賞創作タイプフェイス・コンテスト応募書体(以下、第10回書体と略す)は、欧字のようにラインを持たせた横組専用の書体である。第11回石井賞創作タイプフェイス・コンテスト応募書体(以下、第11回書体と略す)では逆に、漢字の左右方向にラインのようなものを設定し磔法の伸びやかさを強調した、縦組みでしか得られない特徴がでる書体はどうだろうかと考えた。
 いままでにないイメージの縦組み専用が考えられてもいいのではないかと思った。たとえば蒙古文字や満州文字は日本語とはことなるリズム感がある。日本語でも従来の縦組みにはない新しいリズム感を出したかった。そのために、逆三角形をベースに、左払いの先端ができるだけ下方を指すように設計しようとした。

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●蒙古文字と満州文字
 『世界の文字』5版(西田龍雄編、大修館書店、1989年)より

日本語は複数の文字体系で構成されている。だから日本語の活字書体は、漢字と和字をよく調和させなければならない。設計に際して漢字の性格を決めてから和字を合わせていく「漢字主導型」の場合と、和字に合わせて漢字を作っていく「和字主導型」の場合があると考えていた。
 第10回書体は和字を欧文のシステムに倣って設計しそれに漢字をすりよせたので、「和字主導型」だといえる。第11回書体は漢字を設計してから和字を調和させてゆく「漢字主導型」の方法で考えようとしていた。
 漢字のみの文字列を見ていると、ぐっと伸びた横画や磔法に独特のリズムが感じられる。私は漢字の左右方向に変化をつけたら面白いのではないかと思い始めた。活字書体にはボディという制約があるので磔法を強調できないのであるが長体ならば可能だ。こうして磔法を強調した、新しい感覚の書体を設計することにした。
 文字列のイメージは、一字一字の結構によって決定づけられる。さらに一字一字は個々の点画から構成される。第10回書体は和字に合わせて漢字も曲線的なストロークで作ったが、第11回書体では逆に漢字に合わせて和字をかなり極端に直線的にした。これがさらに鋭角的なものにしてくれたようだ。
 第11回書体は、第10回書体の逆をいくことによって成り立っている。漢字主導と和字主導。横組専用と縦組専用。曲線的と直線的。裏返しにすることによって、第10回書体に対抗した活字書体の開発に挑戦していったのである。(つづく)