2020年10月27日

「小学館アンチック」

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紙媒体での百科事典や辞書などは、もうあまり売れないのではないかと思いきや、どうもそうではないらしい。とりわけ小学生向けは好調だという。
「これ一冊で小学生の疑問をぜんぶ解決!」というキャッチフレーズで、2013年11月に発売された1冊ものの小学百科事典『きっずジャポニカ新版』(尾木直樹・平田オリザ・福岡伸一監修、小学館、2013年11月28日)もそのひとつである。
おもな教科はもちろん、政治、国際情勢、あるいは自然など、小学生が知りたい疑問が1冊にまとめられ、すぐにさがすことができるので、自分で解決することができる。カラーイラスト、図解、写真なども豊富だ。漢字はすべてふりがな付きなので小学1年生から使え、大人気分を味わわせてくれるようである。
『きっずジャポニカ新版』の見出しに使われているのが、「小学館アンチック」という書体である。もともと『例解学習国語辞典 第九版』(金田一京助編、小学館、2010年11月19日)のために、小学館国語辞典編集部からの依頼により欣喜堂で新しく制作したアンチック体である。
最近ではゴシック体で組まれることが多くなってきたようだが、少し前まではほとんどの辞書がアンチック体で組まれていた。当時の国語辞典編集部ではアンチック体にたいする思い入れがあったようだ。
「小学館アンチック」は『例解学習国語辞典 第八版』で使われていたアンチック体を参考に、国語辞典編集部の要望を反映させながら制作した。とくに、トメ・ハネ・ハライの書き方は国語辞典編集部の指示に従って設計した。見やすいという評価をいただいていることに安堵している。

2020年10月24日

国際的なコーポレート・タイプのために

企業のブランディング戦略において、コーポレート・タイプはその重要な一部になっている。グローバルな展開を図ろうとする企業では、従来のラテン文字、ギリシャ文字、キリル文字だけではなく、アラビア文字、ヘブライ文字、中国・台湾・日本などの漢字や、日本の和字書体、あるいは韓国のハングル文字も必要とされるようになってきた。
さらに、世界中のすべての通信のためには、デジタル・メディア(モバイル・デバイスやウェブ)で使用するためのコーポレート・タイプを設計しなければならない。企業のイメージを反映し、その要望や使用目的に適った書体開発によってアイデンティティを表現することで、強力なブランディングのツールとなるのだ。
たとえば欧米のタイプ・ファウンダリーが国際的なクライアントからコーポレート・タイプを受注した場合、漢字の書体を台湾や香港のタイプ・ファウンダリーと提携して制作することが考えられる。さらには、和字書体を日本に、ハングル書体を韓国に委託制作することが効率的だろう。
現在のコーポレート・タイプ設計においては、様々なウエイトが必要である。ディスプレイ・タイプは、タイトルなど大きなサイズのブランディング環境のために必要である。ボディ・タイプは画面表示をカバーするために必要である。さらに、その中間に複数のウエイト・ファミリーを備えなければならない。
日本のタイプ・デザイナーが、欧米のタイプ・ファウンダリー、台湾や香港のタイプ・ファウンダリーのデザインとエンジニアリング・チームと協力して、欧米で制作されるラテン文字、台湾や香港で制作される漢字にあわせて、それにマッチする和字書体の設計を担当することもありそうだ。
新しいブランディング・システムとコーポレート・タイプは、世界的規模で展開される。欧米のタイプ・ファウンダリーから見れば、欧字書体が中心であり、従属漢字、従属和字という考え方をとるだろう。日本語での書体の感覚とは異なっている。さらに漢字書体についても、台湾や香港などのタイプ・ファウンダリーと意見を闘わすこともあるだろう。
私も2013年1月にD社と契約を取り交わした。書体設計も国際的になっている。これからは日本のタイプ・デザイナーも国際的な視野を持って、英語(あるいは中国語)でのコミュニケーション能力が必要不可欠の素養となっていくにちがいない。英語は中学から高校、大学と8年間も学ぶ機会があったし、中国語も二年間学習している。にもかかわらず、私は英語も中国語もまったくできない。それでも何とかなっているのは奇跡だ。

2020年10月23日

手探りのなかのデバイス・タイプ

デジタル家電では情報表示が重要な機能となっていて、液晶ディスプレイを搭載することがあたりまえのようになっている。サイズが大きくなり解像度も高くなりつつなかで、そういった画面にふさわしい書体が望まれている。エンベッド・フォントと言うやつだ。
デジタル家電といっても、携帯電話などの通信機器からデジタルテレビ、住宅用ホームメディア・センター、ナビゲーション・システムまで大小さまざまである。画面サイズ、解像度のレベル、装置の特性などが違ってくるのだ。また、同一製品であっても、操作モードによっては表示文字の大きさが違う。
さらに世界多言語対応も条件のひとつになっている。その製品を、世界各国で販売するためには、多くの言語で文字を表示できる必要があるのだ。いわゆる多国語フォント化であり、各国語に合わせたデザインを求められる。
このような組み込みフォントの分野で、日本国内で大きなシェアを持っているA社からの発注で、同社の漢字書体に合わせた和字書体を制作した。新しいテクノロジーについては手探りの状態だったが、そんな環境のなか日本語で表示されるデジタル家電のために設計したのである。

2020年10月22日

「菜の花」

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「菜の花」という書体は、株式会社朗文堂で出版が企画されていた『ヘルマン・ツァップ−−活字と夢と』(未発売)の編集の一環として制作された。一冊の書物のための本文用書体である。その和字書体の設計を私が担当した。
『新デザインガイド 文字大全 雑誌・書籍・広告・パッケージ』(『デザインの現場』編集部、美術出版社、2002年)に、「菜の花 あたらしい日本語組版のための活字書体開発」という4ページの記事と組み見本が掲載された。
そして、この「菜の花」の和字書体が、その後のカスタムメイドの受託制作へとつながっていったのである。

2020年10月21日

「花蓮華」「花胡蝶」「花牡丹」

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「花蓮華M」

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「花胡蝶M」

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「花牡丹DB」

「花蓮華」「花胡蝶」「花牡丹」は、リョービタイプコレクション「伝統書体シリーズ」としてリョービイマジクス株式会社から2003年に発売された。そのパッケージには、リョービ株式会社・リョービイマジクス株式会社・文鼎科技開発股份有限公司の共同開発と記載されている。実際には、漢字、欧字は台湾の文鼎科技開発股份有限公司(英文表記:ARPHIC)がデザインし、和字書体を私が制作したものである。
「花蓮華」は、明治期の木版の教科書『尋常小学修身教範巻四』(普及舎、1894年)に登場した和字の流麗な字様を参考とした。「花胡蝶」は、リョービ書体の原型をなす「晃文堂明朝体五号」の金属活字の清刷りをベースに設計した。「花牡丹」もリョービ・ゴシックシリーズを援用して、波磔を強調しない抑制をきかせたデザインとした。
2011年11月にリョービイマジクス株式会社から株式会社モリサワに事業譲渡され、「花蓮華」「花胡蝶」「花牡丹」は、現在では株式会社モリサワで販売されている。なおリョービイマジクス株式会社は2012年にリョービ株式会社に吸収合併されている。