2018年05月27日

[札幌の虹]プロローグ:「はやぶさ11号」に乗って

2018年5月9日、64回目の誕生日。朝から本降りの雨。季節が逆戻りしたような寒さ。加えて、川越線が10分ほど遅延。小さなトラブルを乗り越えて、10時ちょうど。大宮駅から「はやぶさ11号」に乗車。北海道に向かう。新青森まで東北新幹線、新青森から新函館北斗までが北海道新幹線だ。2016年3月に開業している。北海道新幹線には初めて乗ることになる。
乗車してすぐに雨はあがっていた。ずっと車窓の景色を見て過ごす。鉄道旅の楽しみだ。11時7分、仙台に到着。

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1998年ごろフォントワークスのウェブサイトに掲載していた「タイプフェイスデザイン探訪」という記事の第1回をまとめた小冊子(株式会社コムクエスト発行)がある。この小冊子のタイトルは当時試作していた「欣喜明朝W3」という書体を使っている。
『タイプフェイスデザイン 漫遊』(今田欣一、2000年)には、「欣喜明朝W3」とともに「欣喜ゴシックW3」「欣喜アンチックW3」の組み見本を掲載している。しかしながら「欣喜明朝」はデザインとしての完成度がイマイチだったので日の目を見ることはなかった。

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盛岡には11時47分に到着。盛岡駅を通過した後、車内販売で買った駅弁を食べる。これも鉄道旅である。

私が新入社員として、株式会社写研に就職したのは今から40年ほど前の1977年4月1日のことだった。一週間の新入社員教育期間(会社概要とか就業規則とか)を終えてから原字制作の職場に配属された。すぐに仕事につくのではなく、約3ヶ月間にわたって研修をうけることになった。
その研修で、最初に実習したのは石井細明朝体である。石井細明朝体の書体見本が配られた。この書体見本は仮想ボディ48mmサイズで、基準となる12文字が並べられている。部首、画数などの参考となる代表的な字種である。これを観察して、課題の字種を描いていくのである。
もうひとつ実習したのは石井太ゴシック体である。書体見本12字に合わせて、まず8字を練習した。この8字はすでにあるのだが、もちろんそれを見ることはできない。同じ書体を、同じ書体見本に合わせて、新入社員3名が同じ文字を描く。最初は石井太ゴシック体とは違うものになってしまうが、いろいろ指導をうけていくうちに、石井太ゴシック体となっていくのである。

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今このときに制作した原字(写真)をみると、まだまだだったと思うが、当時としては精一杯やった結果である。この新人研修のカリキュラムが、私にとっての書体制作の原点となっている。私だけではなく、写研の原字制作部門に配属されたすべての社員が経験しているので、同じような原字を保存しているはずである。そして、これらの原字からテスト文字盤を製作、テスト印字まで行われた(残念ながら、これらは持ち帰ることは認められなかった)。この新人研修のカリキュラムが、原字制作の初心者にとって、今でも有効な方法だと私は思っている。
石井茂吉(1887−1963)は、写真植字機を普及させるために必要な書体として、1930年から1935年までに、本文用の明朝体(のちの石井中明朝体+オールドスタイル小がな)、太ゴシック体(のちの石井太ゴシック体+小がな)、それにアンチック体(和字書体のみ)を制作している。このうち「アンチック体」には漢字書体はない。石井横太明朝体がこれに近いのではないだろうか。

新青森には12時35分に到着。どんよりしていた空もすっかり明るくなっていた。30年振りに青函トンネルを通過。青函トンネルができた年以来だが、今回は新幹線で超えた。

「欣喜明朝W3」は、typeKIDSの写植文字盤プロジェクトで蘇った。漢字書体「白澤中明朝体」である。このプロジェクトは簡易文字盤・四葉を製作し、テスト印字物までつくった。
「typeKIDS」は活字と書物にまつわる小さな勉強会である。1年半にわたって取り組んできた3Dプリンター活字「貘1973−B」、電子書籍を組むための「いぬまる吉備楷書W3」などに続いて、2年にわたって取り組んできたのが「白澤中明朝体」「白澤太ゴシック体」「白澤太アンチック体」の写植文字盤化プロジェクトであった。
写研の新人研修のカリキュラムが原字制作の初心者にとって、今でも有効な方法だと私は思っている。TypeKIDSに学生が参加することになって、写真植字用の文字盤をつくるというプロジェクトということで、この新入社員教育のカリキュラムを実践してみることにした。
書体設計の学習用プログラムとして、オリジナルの書体として試作してみることにした。その新しい漢字書体を「白澤」と名付けた。白澤中明朝体、白澤太ゴシック体、そして白澤太アンチック体である。

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白澤中明朝体は、『活字と機械』(野村宗十郎編輯、東京築地活版製造所、1914年)所収の五号明朝活字見本を結法の参考にすることにした。この見本を48mmボディ・サイズに拡大し、これを見ながら下書きしている。白澤太ゴシック体も白澤中明朝体と同じく、『活字と機械』所収の五号ゴチック活字見本を結法の参考にすることにした。この見本を48mmボディ・サイズに拡大し下書きしていった。白澤太アンチック体は金属活字としては『富多無可思』(青山進行堂活版製造所、1909年)所収のアンチック形活字が近いが、これには依らず欧字書体のスラブ・セリフ体にあわせてより現代的に解釈することにし、『活字と機械』所収の五号明朝活字見本および五号ゴチック活字見本を参考にして書体見本12字を制作した。
「白澤太ゴシック体」と組み合わせる和字書体は「きたりすゴシックW6」、欧字書体は「Vrijheid sans」である「白澤太アンチック体」と組み合わせる和字書体は「きたりすアンチックW6」、欧字書体は「Vrijheid slab」を考えている。白澤中明朝体」と組み合わせる和字書体は、「きたりすロマンチック」を想定している。欧字書体は『TRAKTAAT』(邦題=和蘭条約書、1858年)を原資料とした欧字書体「Vrijheid serif」を試作している。

13時38分、新函館北斗着。ここで途中下車して、五稜郭公園の箱館奉行所に向かう。30年前に訪れた時には影も形もなかったが、2010年に、日本伝統建築の匠の技により140年の時を超えて復元されたのだ。

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感動的なものだったので、思わずDVDを購入した。

物語はまだまだ終わらない。漢字書体「白澤中明朝体」は、欧字書体「Vrijheid」とともに、和字書体「きたりすロマンチック」にあわせてデジタルタイプとして試作することにしている。

2018年5月10日、「スーパー北斗5号」で札幌駅へ。
posted by 今田欣一 at 10:21| 札幌の虹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする